世界最大規模の熱帯泥炭地沈下研究が発表される
地盤沈下は、熱帯泥炭地における農業および森林プランテーションの長期管理にとっての課題を提示している。時間をかけて、沈下は断続的な洪水または土地の浸水のリスクを高め、生産性の低下を招く可能性がある。沈下は、乾燥した泥炭の圧密(収縮)と、排水された泥炭地からの二酸化炭素排出の一因である酸素への暴露による分解の促進が相まって生じるものである。
インドネシア最大の紙パルプ製造会社の1つであるAPRILと、その長期供給パートナーらは、スマトラ島リアウ州のおよそ584,000haの泥炭地を管理している。このエリアのうち、約45%が繊維生産のためのアカシア植林地として管理され、約55%が天然林として保護されている。
2007年以降、APRILは自らの植林地および天然林利権が及ぶ場所の至る所に沈下量測定用の柱(subsidence poles)のネットワークを張り巡らせ、監視を続けてきた。この柱は増え続けており、現在では400本を超える。APRIL独立泥炭専門家作業部会の作業の一環として、英国生態・水文センター(UK’s Centre for Ecology and Hydrology)のChris Evans教授がリーダーを務め、インドネシア、英国、フィンランドの科学者およびAPRIL自身の泥炭地科学者チームが支援する科学チームが最近、国際的な学術誌Geodermaにこのネットワークの10年間にわたる観測の分析結果を発表した。
分析されたデータセットには、2000 site-years(箇所×年数)を超える観測が含まれるが、これは、過去発表されたもの中でも群を抜くものであり、熱帯泥炭沈下に与える植林地森林管理の影響を理解する上での手掛かりとなる。データはまた、工業用油やし植林地や小自作農植林地などが含まれる東南アジアで過去に行われた観測結果、およびヨーロッパや北アメリアで過去に行われた観測結果と比較された。分析により、APRILの繊維植林地では、年間平均4.3cmの割合で泥炭沈下が発生していることが確認された。沈下率は、植林地を取り囲む300mの森林「バッファゾーン(緩衝地帯)」の中では同程度であるが、植林地からもっと距離が離れた森林エリアでは低くなっている。
沈下率のばらつきには、平均地下水位が関係していた。これは泥炭の深さ、植林年数、或いは植生の型よりも大きく影響していた。沈下率については概して、排水が同程度である比較的寒冷な北半球の泥炭地よりも高かった。しかし、ヨーロッパおよび北アメリカでの排水を基礎とする農業にとって、一般的に年間1-2cmの沈下率は、依然として課題である。
この研究は、地下水位を定められた値よりも低くならないように規制することにより泥炭地からの温室効果ガスの排出を緩和するというインドネシア政府の政策を支持する科学的証拠を与える。高い水位で経済的に生産性の高い作物を育てることには、いまだ大きな課題があるが、この研究結果は、平均地下水位を高くするという政府の規制により、当面の沈下率が低下し、関連する泥炭分解による二酸化炭素排出が減少する可能性があることを示唆する。
APRILは現在、より高い水位でのアカシア栽培の現場試験を行い、代替繊維源として水に耐性のあるさまざまな在来種の能力を評価し、APRILの管理下にある様々な場所を代表する3基の「フラックス・タワー(flux towers)」によって温室効果ガス交換を監視している。
これらの監視プログラムは、泥炭沈下を理解し、緩和させ、管理された泥炭地からの温室効果ガス正味排出量を削減しようとするものである。