カンパールの自然回復―生態系の健康に焦点を当てた水管理
スマトラ島リアウ州のカンパール半島に広がるリアウ生態系回復(RER)コンセッションエリア――ロニイ・ラス・シラエンが率いる森林保護レンジャーチームの日々のパトロールによって守られています。
森林保護レンジャーの仕事は多岐にわたります。徒歩で、あるいはボートでエリア内を廻り、RER内のさまざまな機能をサポートします。ランドマーク・マップ作製、違法侵入者の取り締まり、RER周縁部の漁民などコミュニティ森林ユーザーとの対応、原生植物種の移植やビジター応対まで、じつに多種多様です。
RERエリアの水管理の監督も、ロニイたちレンジャーチームの重要な任務の一つです。エリア内では過去に伐採事業が営まれており、活動中止後10年以上過ぎた今も古い水路が多数、残っています。ロニイのチームは、これらの水路に特別に注意を払っています。
「泥炭地エリアの適正地下水面位を維持することは重要任務の一つです。私たちは、古い水路の閉鎖のために築いた堤防を定期的に点検し、堤防が森林エリア内の水の貯留という機能を果たしていることを確認します。
「また、森林エリア内の水文学的機能に関する理解を深めるため、乾季と雨季の地下水面位の変化もモニタリングしています」とロニイは言葉を続けます。
地下水面位を適正に維持すること――すなわち、泥炭土が湿潤状態に保たれるようにすること――は、泥炭地と泥炭地を基盤とする多様な生態系の健康管理の重要な一部分です。降水量の季節変動や地下水流量の変動によって、地下水面位は変化します。水面位が低すぎると泥炭土は乾燥し、違法な野焼きなどが原因の火災が発生しやすくなります。また、炭素排出量も増加します。
これが、地下水面位の自然の変動を回復し健康な森林を維持するためには古い水路の閉鎖が決定的に重要な理由です」とロニイは説明します。
RERは、2013年にエリア回復ライセンス第1号を取得して以来、延べ116kmに及ぶ36本の古い水路の存在を確認しています。水路は、1980年代に伐採事業者が周辺の森林で伐り出した丸太の運搬のために開削したもので、幅1~9m、深さは最大で1.5mに達します。
RER保全部副部長ブラッド・サンダースは、「ロニイのチームの行っている活動は、泥炭林の水文学状況復元および地下水面位の変動を自然の季節変動に準じたものとするという私たちの目標の一部です」と説明します。
「地下水面位を回復することで、地盤沈下が最小限に抑えられ、火災防止に貢献します。また、乾燥泥炭や泥炭燃焼による炭素排出の削減にも役立ちます。」
古い水路の一部は、河川を利用する漁民などが森林への進入路の目印としています。このため、地下水面位回復活動は、コミュニティの利害に配慮し慎重に進められています。
ロニイのチームの目標は、乾季に泥炭の湿潤状態が長く維持されるようにすることです。このために、地下水面位を40㎝刻みで引き上げることで、水流を堰き止め、あるいは流速を小さくしています。サンガー地点(写真の場所)では、幅3mの水路に、水路路床勾配に従って階段状堤防が築かれています。
ロニイは言います:「4人が2日がかりで25~30㎏の砂袋80個を積み上げ、堰を築きました」
ロニイによると、必要な砂袋の数は水路の幅と水深によって異なり、1基の堤防に必要な量は80~300個と差があります。
「水路まで道路が通じていれば数日ですみます。しかし、森林の奥深いところにある水路の場合、砂袋の運搬は小型ボート頼みで、1回に運べる量は砂袋せいぜい20~25個どまりです。セルカップ川区間は50km、水路は森林の奥深くまで伸びています。」
砂袋堤防の建設は、まず下流端すなわち水路の出口(森林からの流出する水路と河川との合流地点)から開始されます。この地点は、「水頭圧」すなわち堤防に作用する水圧力が最大です。建設資材は、高張力ポリプロピレン繊維製でUV耐性の大きい砂袋(Geo-Reinfox)を使用します。
上流地点、すなわち最初の堤防からの標高差が40㎝の地点に、2基目の堤防を建設します。ここで使用する建設資材は、アルミパイプや使用済みフェルトコンベヤベルト(エイプリル社の製紙工場から提供を受けます)など、堅牢なリサイクル材料です。合成繊維フェルトは空隙率が非常に低く、また供用寿命が過ぎており環境への悪影響は生じません。
「年に1度、ロニイたちは、堤防の状態をチェックし、必要に応じて補修し砂袋を追加します」とサンダースは説明します。これまでに、こうして建設された堤防は25基、9本の水路(総距離29km)が閉鎖されました。