ステークホルダー諮問委員会結成からの2年半を振り返って
ジョセフ・C・ローソン、ステークホルダー諮問委員会 委員長
2013年の暮れ、エイプリル社から連絡があり、ある打診をされました。それはエイプリル社が外部のアドバイスを取り入れたいと思っているので、それを支援くれないかというものでした。当時私は退職したばかりで、35年ぶりに仕事から離れて、家族と過ごす時間を楽しみにしていました。私が選ばれたことを光栄にも思いましたが、正直なところ、当初は謹んで辞退するつもりだったのです。
私は、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)に関わっていましたので、エイプリル社に対する世間のイメージについてはよく分かっていました。実際、私はWBCSDの林業ワーキンググループからエイプリル社に宛てたレターの草案を作成したことがあります。その中で、エイプリル社の透明性の欠如ゆえに、エイプリル社とWBCSDの評判が危ぶまれ、外部のステークホルダーの間で悪いイメージが広がっていると指摘しました。正直に言うと、私はWBCSDと関わる中でエイプリル社のトップの経営陣の多くを知っていましたので、この否定的な世論の広がりには正当な根拠がないと思いました。エイプリル社が完璧だったかというと、それはもちろん違います。 ある程度改善の余地はありました。しかし東南アジアの熱帯林が直面しているすべての問題の主な原因がエイプリル社にあるわけではないことは分かっていました。
そのためエイプリル社の経営陣に敬意を払い、また、同社は市場関係者が思い描いている以上に優れた企業であるという私の個人的な気持ちもあって、私はシンガポールで彼らと会い、この外部アドバイザーの取組みの進め方について話をすることにしました。私には4つの主な疑問があり、それに回答してもらいたかったのです。
- 提案されたこの取組みは、エイプリル社のトップの経営陣の支持を得られるのか?エイプリル社とRGEグループの最高幹部は、外部の諮問機関を作ることを確約するのか?
- これは単に今年限りの広報戦略というわけではなく、長期的に取り組むつもりがあるのか?
- 提案されたステークホルダー諮問委員会(SAC)は、本当に独立した機関なのか?また、エイプリル社は、支持する者と批判する者の両方を含めた諮問機関を作り上げることを容認するのか?
- エイプリル社の経営陣は、諮問機関の提言を客観的に受け止め、必要な対応を実施するのか?
じっくり考え、多くの仲間たちに相談してから、私は委員長を務めることを了承しました。実のところ、時間が経たないと私の疑問に答えは出ないでしょう。しかしこれまでの2年半を振り返り、私の考えをお伝えしたいと思います。
わたしの1つ目の疑問に対する答えは、SACのような取組みを成功させるのには非常に重要となります。私は、SACがエイプリル社のトップの経営陣から全面的に支持されていると、心から確信しています。
民間企業であるエイプリル社には、SACの発足や運営に制約を加えることも簡単にできるはずでした。しかし、そうならなかったとお伝えできることを嬉しく思います。実際、エイプリル社は、SACに全面的な信頼を寄せてくれましたし、WBCSDに関わっていた初期の頃の経営モデルとは明らかに対照的でした。思うに、エイプリル社とRGEグループの最高幹部から信頼と支持を得たことが、この2年半における最も素晴らしい成功ではないでしょうか。
次の疑問は、これが長期的な取組みであり、単に今年限りの人気集めではないのか、ということです。やはりこれも答えを出すには時間が必要ですが、私はいくつかの要素から、長期的な取組みになるだろうと期待しています。外部の第三者による監査の実施がそのひとつです。どのような検証もそうであるように、第三者による監査とは、継続的な改善を目指した長期的な視点に基づくものです。年に1度のこの検証作業は皆さんに公表されますが、そこにはエイプリル社の最も重要なステークホルダーと考えられる顧客も含まれます。私はエイプリル社の顧客と、SACの取組みについて個人的に話をしていますが、予想通り彼らは私たちに熱心に関心を寄せていると同時に、厳しい要求もしてきます。多くの人が持続可能性に関する問題をよく知っていて、鋭い質問をしてきます。彼らは、エイプリル社による持続可能性の誓約が長期的なものになると確信しています。
こうしたことから、エイプリル社にはSACを含む持続可能性への取組みを継続するという確固たる意思があり、単なる短期的な宣伝目的で行っているわけではないと確信しています。
次の疑問はSACの構成に関するものです。エイプリル社は、これまで同社に批判的だった者もSACメンバーとして迎え入れられるのでしょうか?これまでのキャリアを通じ、私は外部から働きかけを行う取組みに参加してきました。SACのような取組みに信頼性と有効性を持たせるためには、参加メンバーのバランスが重要です。知名度の高い多くの企業と同様、エイプリル社は長年にわたりステークホルダーとの関わりにおいてはリスク回避的な立場を取っており、自分たちに批判的な人々とオープンに関わることを疑問視していました。
しかし私はこうした態度が変化するのを見てきました。少なくとも、市場の圧力とNGOの効果的なキャンペーンにより、天然資源を基盤とする企業は自分たちに反対する者たちともしばしば関わるようになりました。これは過去に見られた「口出し無用」といった態度とは対照的です。この傾向は、現メンバーの中にWWFおよびグリーンピースが存在するSACの構成にもはっきりと表れています。ですから「SACの構成」に関し、「エイプリル社に批判的だった者もSACに迎え入れるのか?」という疑問へ私が回答するならば、「イエス」です。エイプリル社はSACの多様なメンバー構成を支持しています。しかし、注意書きをひとつ加えるべきでしょう。これはいまだに発展中の取組みであり、引き続き、意見を二分する多くの問題に直面する可能性があるということです。とは言え、エイプリル社は自らに反対の立場の者がSACに参加することを支持したのですから、これは高く評価すべきです。
もちろん、最終的なSACの役割は、エイプリル社の林業運営の改善を促進することです。私たちは多くの場合、NGOの提言と組み合わせてSAC提言を作成しています。そうした提言によって大きな改善を見せた素晴らしい例を以下に挙げます。
- エイプリル社工場での混合熱帯広葉樹の使用停止までの期間を短縮し、実施。
- 現地ステークホルダーおよび/またはNGOとの定期的な会合の設定
- オンラインで一般に利用でき、関連マップやその他の関連する基準を掲載する持続可能性ポータルサイトの設置
- 苦情処理のSOPの改善や紛争解消プロセスの作成
- 第三者泥炭専門家ワーキンググループ(IPEWG)の設置
上記の改善は現在も進行中で、今後数ヶ月でさらに進展していきます。とにかく、順調に実施が進み、大幅な継続的改善への枠組みが築かれています。
SACの提言を考慮する際に、エイプリル社はこれまで本当に誠実な態度を見せてきました。予想できることですが全ての提言がすぐさま受け入れられたわけではありませんし、実際、多くの場合、その提言についての話し合いがされました。しかし、エイプリル社の経営陣が検討を拒否したことは1度もありませんし、最終的にはSACの提言を取り入れています。確かに、重要な提言の中には最終的な実施までに時間がかかっているものもありますが、これも近いうちに完了すると確信しています。
ですから、私が2年以上前に抱いていた当初の疑問や懸念を思い返せば、良い変化があることを素晴らしいと思います。明らかに、私たちはエイプリル社から支持されており、かなりバランスの取れたメンバーで構成され、エイプリル社の森林管理プログラムを大きく改善する支援をしてきました。
しかし、このようなプログラムは大抵そうなのですが、最初の段階が最も簡単です。前途には多くの困難が待ち受けていると考えています。
まず、これまでのような進展を今後も確実に継続していくことです。私たちは、SACの価値を高める方法を引き続き探し、付加価値のある意義深い提言を行い、重要なステークホルダーと効果的に関わる必要があります。SACはステークホルダーとの対話のプログラムを開始しましたが、この作業を効率的、効果的に行うのは極めて難しいものです。プログラムのこの部分には、改善の余地が多くあります。
引き続き、委員会メンバー間での信頼を築き、彼らの専門知識をさらに活用する必要があります。SACは意図的に小さなグループにしていますが、メンバーには、SACによる考察や提言を豊かにしてくれる外部のステークホルダーとの幅広いネットワークがあります。
第三者による検証プログラムの改良を続けること、そしてその際にはステークホルダーにとって意味があり、業務の成果を向上させるような基準を重視する必要があります。SACの検証プログラムはいくぶん独特であり、私たちは体系化された基準では検証せず、SFMPの検証のためのテンプレートを作成しています。
エイプリル社の持続可能な森林管理方針が成熟するにつれ、今後の改良点と集中すべき分野が出てきます。そのほとんどが幅広い景観管理アプローチに含まれますし、含まれるべきものですが、今後数ヶ月のうちに重要な課題になってくると考えます。景観レベルで計画するという概念は決して簡単ではなく、インドネシアでは特に困難を伴います。成功を収めるためには、特に現地自治体および中央政府のプログラム、森林を基盤とする他の業界、現地コミュニティ、NGOと協力して計画を行う必要があります。エイプリル社の優れた経営論理と森林や森林を基盤とするコミュニティへの最大限の効果に基づいて、計画を進めることを優先しなければなりません。SACは、こうした森林管理アプローチを作成、実施する中で、重要な役目を担います。
景観アプローチと合わせて、エイプリル社は保全計画の策定という課題に取り組みます。エイプリル社とそのサプライヤーのコンセッションのほとんどの地区に自然林が存在します。こうした地区の整理、連結性および回復が生み出す価値を最大限に高めるための機会が評価されるべきでしょう。SACは、保全マップに関する提言を行い、この問題について引き続き強調していきます。間違いなく、リアウ環境回復などのエイプリル社の取組みは評価に値するものです。しかし、このプロジェクトが、より広範な景観アプローチに組み込まれたときに、その価値が増大するのです。
特に現地コミュニティの権利や土地の保有に関する社会的な対立も、引き続き課題です。この件ではSACに役割があるでしょうし、役割を担うべきです。現地ステークホルダーとの関わりを持つのは良いことなのですが、先に述べたように、SACが最大限貢献していくには多くの改善の余地があります。これについては今後の会議で重視していきます。
第三者泥炭専門化ワーキンググループ(IPEWG)の設置は前向きな展開です。エイプリル社には、SACと同様、このグループからの提言を支持するという課題が生まれます。彼らの提言がエイプリル社の既存の慣行と常に一致するとは限らないからです。SACはこのワーキンググループと直接関わり、IPEWGの提言の作成と実施に関与していきます。
その他の課題も残っています。慢性的な火災と煙害の問題は、インドネシアでは嫌というほど知れ渡っていますが、昨年の火災は初めて世界の注目を集めました。当然ながら、昨年のような規模の火災が続けば、世界の注目は再び、森林を基盤とするインドネシアの産業に注がれます。私はエイプリル社が、火災の根本原因解消を目指してコミュニティを中心とした取組みを重視していることを評価しています。この課題によって、取組みの有効性は向上し続け、エイプリル社が直接影響を与える地区以外にも拡大していきます。私はここでも、SACが取組みの成功や火災関連のその他の取組みを促進する上で関与していくことができると考えています。
まとめると、SACは良いスタートを切りましたが、まだ改善の余地があると言えます。私たちには、現地コミュニティのメンバー、森林の技術専門家、企業代表者、現地および国際的なNGOといった適任者がいます。ある程度の成功は収めましたが、やるべきことはまだ沢山あります。前を見れば、困難が待ち受けています。「インドネシアの置かれている状況」それ自体が、困難を生み出しますが、同時に途方もないメリットを持つ可能性も見せています。
最後に、SACの他のメンバーに謝意と賛辞を送りたいと思います。WWFは設立当初からのメンバーであり、最初の数ヶ月は唯一の国際的NGOでした。他のNGOからの批判があったことも知っていますし、WWFの参加に私がどれほど感謝しているかは伝えきれません。アル・アザール氏も一貫して支持してくれました。彼の同僚の中には、彼の誠実さを疑問視する人もいたのではないかと思います。グリーンピースがSACに参加したのは最近ですが、エイプリル社が直面している問題について膨大な知識を提供してくれています。私の考えでは、グリーンピースの参加はこのチームにとって極めて価値があり、彼らはSACの考え方を広げ、SACをより良い会にしてくれるでしょう。それから、技術専門家のジェフ・セイヤー氏とニール・バイロン氏は、SAC以外の活動で多忙を極めていますが、時間を割いてSACの成功に貢献してくれています。
エイプリル社や森林を基盤とする他の産業は、社会的利益を生み出しつつも、国に残された自然の遺産を保全するような進め方で事業を行わなければならないという独特の立場にあります。SACはインドネシアが責任ある国として発展していくのを助ける小さな役割を担っていると言えるかもしれません。ですから、自分がその一部であることを嬉しく思っています。
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